正山小種

山小種(せいざんしょうしゅ)は、中国福建省武夷山原産の紅茶です。「ラプサンスーチョン」とも呼ばれます。
この愛嬌のある名前の紅茶は、収穫した茶葉を発酵させたあと、松または龍眼の葉や幹、根などを燃やした煙で茶葉を燻すという、他にはない変わった製法で作られています。燻製に使う木の種類や部位により、香りや味わいが異なるため、同じ名称の紅茶でも特徴は様々です。

起源は17世紀、明の時代まで遡ります。
製茶の時期に役人が村を訪れたために作業が滞り、乾燥工程を短縮するために苦肉の策で木を燃やした煙で乾かした所、非常に香り高いお茶になった、というのがこのお茶の起源として知られています。また、誰でも知っている紅茶「アールグレイ」も、元は正山小種にベルガモッドを着香させたものです。

穫期は春と夏の年二回です。5月に収穫されたものが上質とされ、9月~10月に市場に出荷されます。
茶樹の比較的下に生える、大きくて堅い葉(スーチョン)が使われます。
萎凋→揉捻→発酵→乾燥(大きな鍋で炒る)→再揉捻(茶色の色を付けるため)→燻焙(松の木で6~8時間燻す)→乾燥
という通常より手間のかかる工程で製茶されます。

特のスモーキーな強い香りが特徴で、日本国内ではその香りはしばしば胃腸薬の正露丸にも例えられます。
かなり強烈な香りで、一般的な紅茶缶では香りが漏れてくるほど。ティーポットにススが浮いてくることもあります。
素焼きの中国茶器は香りを吸ってしまうため、一度でも正山小種を淹れてしまうと、他のお茶は淹れることができなくなるため禁忌です。
しかし、上質な茶葉は薫香はさほど強くなく、甘く上質な香りは龍眼香とも呼ばれます。
一方、ヨーロッパでは薫香が強めのものが人気があり、他のお茶にアクセントとしてひとつまみ加えたり、ミルクティーにするなどして飲まれます。

色は濃いオレンジ色。
長く蒸らしても渋みは出にくいですが、酸味が出ることがあります。
しかし酸味が出てしまってもミルクと合わせることで、驚くほど甘くまろやかで飲みやすい紅茶になります。
香りが香りだけに好みが別れる紅茶ですが、この特徴的な香りに魅せられる人も多くいます。
カレーなどスパイシーな料理や、スモークサーモンなど塩気の強いものがよく合います。

正山小種は普通の紅茶と異なり、長期保存が可能なお茶でもあります。
状態の良い茶葉は年月を経て熟成され、より芳醇でコクのあるお茶になりますので、お気に入りを買い溜めして寝かせて楽しむことができます。

武夷山以外で作られた正山小種(ラプサンスーチョン)は「外山小種(タリースーチョン)」と呼ばれています。